脱衣場の床の張替え |
踏み応(ごた)えというものがない。
そのまま踏み抜くのでは? と不安になる。
25年以上も使ったので、合板の糊がはげて浮いているようだ。
そこで今回は、床を張り替える。
ぶあんぶあんしているところにバールを打ち込み、合板をはぐってみる。
すると、根太(ねだ)の垂木(たるき)が腐っているところがあった。
大工は、「これはシロアリだ、業者に駆除させたほうがいい」という。
しかし、金銭的に余裕というものがこちらにはない。
それに、長生きしてもせいぜいあと10年か20年だ。
それまでもてればいい。
考えてみれば、水気のあるところの根太が腐るのは当たり前のこと。
腐れないほうがおかしい。
そうであれば、腐った根太を取り替えればすむというもの。
実際、腐った根太は3本だけで、他の根太、大引はびくともしない。
それらは予想以上にしっかりしていて、釘を抜くのが長いバールをもってしても一苦労だった。
先ごろ高齢者をねらった増改築の詐欺の報道を、テレビでやっていたことを思い出した。
ははーん、これか。
持ち主に対し、シロアリによる被害という不安をあおり、いま駆除をしないと取り返しがつかない事態になるなどと脅すのも大工の重要な仕事だそうである。
こんかいの場合、テレビ報道とまったく同じだ。
テレビでは、大工はシロアリ駆除業者とグルだともいっていた。
そして連絡を受けたシロアリ駆除業者は、床下にもぐりこんで出てきてはチリ紙につつんだシロアリを見せるというのがもっとも一般的な手口だそうである。
これで、ほとんどのひとは業者にシロアリ処理を依頼するらしい。
金銭的に余裕があったら、こちらも危うく引っかかるところだった。
詐欺の被害にあわないもっとも有効な対策は、案外金欠病かもしれない。
この根太の上に、無垢(むく)のヒノキの板を貼る。
檜板でも、節のある板と節のない板とがある。
もちろん、節のない無節(むぶし)といわれる板のほうが価格も高い。
節にも、「生き節」と「死に節」とがある。
「死に節」とは、節を押せば節が抜けて節穴(ふしあな)ができる節である。
これは、いただけない。
しかし、生き節ならかえってその節が意匠にもなる。
無垢とは、まじじもののないこと、純粋なという意味だが、この場合合板でない材を意味する。
無垢のヒノキの板は「えんこ板」とよばれ、以前は木造の小学校の廊下はすべてこの「えんこ板」だった。
「静かに!」の張り紙を尻目に、よく廊下を走った。
そして、立たされたのもこの「えんこ板」の貼られた廊下だった。
求菩提山