失中! それでもLeeの追い止め芸に満足 |
Leeの直子が多くいるので、Leeを山に引くのは10日に1回の割合である。
きょうは、Leeだけの「一銃一狗」でいく。
狙う山は、先日Leeの直子で4期生の赤(♀)がイノシシを獲りそこなった山である。
この山は里にあり、太い孟宗竹(もうそうちく)がすごい勢いで生い茂り、枯れた竹が倒れている手入れのされていない山である。
いずこも同じだが、山村は高齢化で孟宗山を手入れする人もいないのだろう。
南面にひらけて孟宗竹の林のタケノコを、イノシシは正月前から掘っている。
先日イノシシが寝ていたその南面の孟宗竹の林には、イノシシはきょうは寝ていない。
となると、寝屋は北面のウラジロの密生したところだろう。
ここでも4期生の赤が、イノシシに逃げられている。
尾根にはウラジロの葉が裏返っていて、イノシシが頻繁に通っていることがわかる。
その尾根を先になって歩くLeeが、右側のウラジロの下り斜面に飛び込んだ。
出るか!
「ウオウオオー」と、Leeが独特の起こし声で吠える。
ここから25メートル下のウラジロの中である。
Leeの絡(から)み声が、下の方へ移動していく。
イノシシが逃げている。
Leeの軌跡が登ってきている。
イノシシは、先ほどこちらが歩いてきた尾根を越えるようだ。
その先は、谷をはさんで先ほどの孟宗竹の生い茂る山となっている。
ウラジロの密生したところというものは歩きにくい。
やはり、イノシシとLeeがこちらより先に尾根を越えて追っていってしまった。
こちらとは、もう200メートルも離されている。
もうこちらの足ではとても追いつけない。
あとはLeeの追い止め芸に期待するしかない。
谷の方から、Leeの咆哮(ほうこう)が聞こえる。
よし、追い止めた!
子尾根を伝って谷に降りる。
この谷は、V字型の谷ではない。
V字型の谷であれば、谷の中で追い止めることができるのだが。
そこは、底が平らになった谷となっている。
Leeは、谷を渡った向こう斜面のすぐ上で吠えている。
そこは、細い真竹の薮である。
Leeは、左を向いて吠えている。
藪のため見通しがわるく、イノシシの姿は確認できないので撃てない。
Leeは、こちらが到着したことを知った。
Leeの後ろのやや下側に陣取り、イノシシが出てくるところを迎え撃つことにする。
Leeは、主人が来てくれたことを知って一段とはげしく吠え立てる。
Leeは、イノシシがいつ体当たり攻撃をしてもこれを避け得るように半身の姿勢で吠え立てている。
いまに、出てくるぞ!
Leeが逃げる。
その後を、褐色のイノシシが飛び出てきた。
こちらの目の前を横切る。
そこを1発かける。
イノシシは止まらず、そのままの勢いで斜面を登っていく。
そこへ2発目をかける。
いずれも失中だ。
肩の筋肉の盛り上がり方から判断して、このイノシシはオスであろう。
Leeは追っていったが、きょうは2発も発射したのでイノシシに追いつけまい。
ふもとの溜め池のところで、失尾したようだ。
Leeを迎えに行き、「わるい、わるい、ごめん」と謝った。
さいわい、Leeにケガはないようだ。
追い止めされたイノシシは、犬を蹴散らかしてまた元の所に戻ることが多い。
その元の場所が、岩や風倒木ならまたそこへ戻る。
ところがきょうのようにイノシシの止められていた場所は藪であり、岩や風倒木ではない。
それに、イノシシは犬を蹴散らした勢いのまま逃げる場合もある。
こちらの目の前を全身をさらして走るイノシシを見ると、撃ちたい誘惑にかられてしまう。
上手な人は、イイノシシが飛び出てくるところをカウンター攻撃で仕留めるという。
たしかに2発も撃って失中とはなさけない。
もっとも、2発目はまぐれ当たりを期待しての発射だが。
しかし、Leeの追い止め芸の健在ぶりを目(ま)の当たりにして気分は妙にすがすがしい。
Leeは、きょうもいい仕事をした。
きょうは、こちらの完敗である。
このイノシシとまた相まみえることもあろう、そのときはかならず仕留めてやる。