初竿in山国川 |
山国川は、大分県の玖珠(くす)を源流とし、耶馬渓(やばけい)をへて中津市から周防灘(すおうなだ)にそそぐ一級河川である。
釣るところは、山国川の中流域に位置する耶馬溪である。
ここは、ふるくは江戸後期の儒学者・漢詩家である頼山陽(らいさんよう)が「天下の景」として絶賛した風光明媚なところとして有名である。
各地に「〇〇耶馬溪」とあるのは、ここの耶馬渓にあやかったものである。
さらに、ここには菊池寛の小説「恩讐(おんしゅう)の彼方に」の舞台となった「青の洞門」がある。
この「青の洞門」付近は、観光地のため禁猟区となっている。
きょう指導してくれるのは、鮎釣り暦20年のベテラン郡司掛さんだ。
かれの案内で、川の右岸から入る。
この川は古代の耶馬溪火山帯に属するため、岩盤が多く見られる川となっている。
まず、野鮎の食み跡(はみあと)を教えてもらう。
食み跡がみつかれば、その付近の野鮎の生息状況を知る手がかりになる。
2ヶ月間いた長良川では、結局食み跡は一度も見ずじまいだった。
「ここに食み跡がある。これが食み跡だ」と、かれが一部だけ水面に出た石を指さしていう。
見ると、石の水中にあるところに、なるほど本で見たとおりの笹の葉に似た野鮎がアカを食べた跡がたくさんついている。
それも水面すれすれのところにあり、こんかいの大水が出てから野鮎が食(は)んだ跡であることを示している。
あいにく日曜日にふった大雨のため川の水かさはまだ高く、そのうえわずかに濁りが残っている。
したがって、きょうは友釣りの条件としてはよくない。
郡司掛さんの指示で、瀬の頭に竿を入れる。
しばらくオトリを泳がせていると、ピリピリと手ごたえがあった。
すかさず、竿をあげると中型の野鮎がかかった。
幸先がいい。
これを見届けてから、かれが釣る支度をする。
かれの仕掛けは、錨針は8.5号と大きい。
それに背針は使わず、そのかわり鼻環を鼻腔ではなく背に打つ。
これには、意表をつかれた。
このほうが、オトリがよく泳ぐという。
その地方その地方によって独特の仕掛けがあるといわれるが、鼻環を背に打つのを見るのははじめてだ。
日本の原風景