いのししの解体 |
山のせまい道路で、向から軽トラがくる。
電話の主だ。
後部荷台には、ブルーシートがかけられたいのししが横たわっている。
ブルーシートをはぐると、推定60kg級のオスだ。
かれは、痩せているしのししだという。
こちらは、ここ何年もいのししを獲ったことがないので、太っているか痩せてせているか判断ができかねる。
さっそく熱湯をかけながら、毛を丁寧に抜いていく。
いのししが裸かんぼうになった。
それでも、このいのししが太っているのか痩せているのかわからない。
体のあちこちにカミソリで切ったような切り傷がある。
かれのいうには、この傷はメスを求めてオス同士の争いになり相手の牙で切られた傷だという。
野生動物の世界では、自分の子孫を残すことができるのは、戦いに勝ったオスだけである。
戦いにやぶれたオスは、子孫を残すことができない。
これが、野生に生きる動物たちの冷厳たる掟(おきて)なのである。
その点、人間はどうか?
考えさせられてしまう。
づぎに弾がどこに入ったかを確認する。
左の肩口に一発ライフルの入った弾痕があり、左の後足の膝が折れている。
かれの言うには、一発で倒れなかったのでもう一発打ったという。
膝のところを切開してみると、膝の骨が粉々になっていた。
これでは遠くまで逃げられない。
いよい腹にナイフを入れる。
すると、皮についている皮下脂肪が極端にすくない。
まるでうすい毛布をかぶっているようだ。
本来なら1月ごろに獲れたいのししは、皮の下に1寸(3㎝)ほどの脂肪がついているのが普通だ。
ところが、今ごろになるといのししの繁殖期となる。
そのため、オスいのししはメスを求めて山中をさがしまわる。
そこでオスいのししがかち合うと、メスいのししをめぐってオス同士が命をかけた闘争をくりひろげる。
そして勝利をおさめたオスだけが交尾をすることが許される。
そのため繁殖期には、いのししはこのように痩せてくる。
強いオスには、メタボ症候群など無縁のものである。
人間も、このような男性にはメタボ症候群など縁のないことなのであろう。
原風景を求めてオートバイの旅