雪のふる町を |
路線バスが、チェーンを巻いて走っているのだろう。
カーテンをひらくと、いちめんのしろい世界。
いまも雪が降っている。
葉を落としたケヤキの黒い木が、綿帽子をかぶっている。
枯れ木に、花が咲いたようだ。
ナノミの枝からザーと雪が落ち、雪煙があがった。
遠くの民家は雪にけむっていて、空との境目がない。
中谷宇吉郎は、「雪は天から送られた手紙である」といった。
かれは、雪の結晶、凍土などの研究で「雪博士」として知られる物理学者である。
またかれは、すぐれた随筆家としても名高く、「中谷宇吉郎随筆集」もでている。
あらためて、その本を手にとる。
そのなかに、去年登った十勝岳などが出てくる。
南国では美化されがちな雪も、雪国のひとにとっては雪は厄介者だろう。
旅の途中でめぐりあった北国のあのひと、かのひと。
いまごろ、どうしているだろう。
おもわず「雪の降る町を」をくちずさむ。
1.雪の降る町を 雪の降る町を
想い出だけが 通りすぎてゆく
雪の降る町を 遠い国からおちてくる
この想い出を この想い出を
いつの日か包まん
あたたかき幸福の ほほえみ
2.雪の降る町を 雪の降る町を
足おとだけが 追いかけてゆく
雪の降る町を 一人心に満ちてくる
この哀しみを この哀しみを
いつの日か解(ほぐ)さん
緑なす春の日の そよかぜ
求菩提山