求菩提犬(くぼてけん)初代先犬のLee、不覚をとる |
(右後ろ足を負傷した求菩提犬初代先犬のLee。今は神妙な表情をしている)
きょうは、温存しているLeeを出撃させた。
というのも、年末に若犬の4期生のロッキー、5期生の次郎と二代目Uの現役犬の3匹がケガをして故障者リストに載っているからである。
先を行く初代先犬のLeeが、ひと声、ふた声吠えた。
たったひと声、ふた声である
ここから200mの地点である。
藪もないのに、イノシシの寝屋があったのか?
こちらが急いで寄りつくと、Leeがこちらのもとへ戻ってきた。
右の後足の腿(もも)のところから出血している。
その足をあげていないところから、重傷ではないようだ。
この犬は、負傷するとすぐ戦意喪失して戦線を離れる。
それが、いいところでもある。
なぜなら、ここは再起を期して治療に専念し、万全の体制になってからふたたび勝負すればいいからである。
たしかに、腹を裂かれて腸を引きずりながら戦う犬もいるという。
そのうち腸を食いちぎり、それでも戦う姿は勇敢であり感動的でもある。
しかし、それでその犬は死んでしまう。
かつて、腹をえぐられながら戦闘に加わった三本足のUは、結局戦死してしまった。
しかしこの三本足の本当の死因は、横隔膜が損傷していることを見落とした獣医の誤診にある。
鍵の手に破られた表皮の縫合にのみ気を奪われ、内側の横隔膜が傷ついていることに気がつかなかったのである。
容態(ようだい)が急変し、あわてて包帯で体中をぐるぐる巻きにしたが、どうしても肺の空気が漏れるため呼吸困難に陥ってついに死に至った。
この手の獣医による誤診は枚挙にいとまがない。
それでも、治療代を請求するからその厚かましいこといちじるしい。
猟犬の死の原因のひとつは、医師の誤診、処置ミスであろうが、みんな亡き寝入りである。
ハンターにとって、良心的な獣医をみつけることが大事な所以(ゆえん)はここにある。
Leeが戦意を喪失した以上、これ以降猟はつづけられない。
ここは、早々と退散だ。
この犬はケガにめっぽう弱く、こちらがケガの程度を確認しょうと体に触(さわ)ると怒って咬みつこうとする。
そのため、大事をとって獣医に走る。
右後ろ脚の大腿部の前をイノシシの牙にやられたもので、縫合して終わった。
皮一枚の深さの軽傷である。
このLeeは、大晦日の日に60㎏の赤イノシシを獲らせている。
この赤イノシシは、太くて長い牙をもっていたが、犬にケガはまったくなかった。
間合いを取っていたからである。
きょうの相手の姿を見ていないので確定的なことは言えないが、獲物は50㎏前後のイノシシだと思われる。
なぜなら、昨シーズンのことだが、目の前でLeeがシダのトンネルの入り口で吠え立てていたとき、寝屋から飛び出てきたイノシシにつかまって転がされ、尻尾を咬まれたことがあった。
急きょわが家にとって返し、二代目先犬の黒と三本足の2匹と交代させ、先の現場近くで1時間後にLeeの仇を討った。
この時のイノシシは、50㎏のメスイノシシであった。
さらに、これは1昨年前のシーズン直前のことであるが、Leeが肺まで達する刺し傷を負ったことがあった。
このときのイノシシは、シーズンに入って二日目にこれも二代目先犬の黒と三本足で獲った。
このイノシシは、47㎏のオスイノシシであった。
以上のことを総合的に判断すると、Leeが負傷するのはどうも50㎏前後の比較的小型のイノシシを相手にした場合のようである。
相手が小さいからと侮(あなど)り、早い段階で咬みにいって反撃されたのであろうと推定する。
Leeの吠え声は普段なら「ウォオオオオー、ウォオオオオー」と連続して吠えるのに、きょうに限ってはわずかにひと声、ふた声であったことがそれを裏付けている。