遠征猟2日目ーロッキーがトラウマを克服 |
(激闘の末、斃された巨イノシシ)
猪犬:求菩提犬(くぼてけん)初代先犬のLee(♂)とその直子で4期生のロッキー(♂)と赤(♀)の(いずれも1歳3か月齢の同胎犬)
獲物:オスの110㎏のイノシシ
こちらの先を行く求菩提犬(くぼてけん)初代先犬のLeeが、突然吠え出した。
その吠え声は、「ウォーウォーウォーウォー」という連続した独特の吠え声であるところからすぐLeeとわかる。
見習い中のロッキーと赤が、その吠え声のする方向へ走っていった。
山じゅうに響くような、犬たちのけたたましい吠え声がする。
おや?、ロッキーの吠え声もまじっていて、きょうは参戦していることがわかった。
ロッキーは、昨シーズンの終わりごろイノシシに足と尻尾の骨を折られてトラウマに陥っているのだが。
そのため、父親のLeeがイノシシと遣(や)り合っていても父親の加勢に行かなかったことがある。
遠巻きに見るだけであった。
ロッキーのトラウマの程度は相当に重症である。
このシーズンの最大の課題は、このロッキーのトラウマの克服である。
そのため、ロッキーをなるべく数多くLeeに同行させるようにしている。
とにかくイノシシを獲って咬ますことが、トラウマの克服の最良の治療方法であろうと考えられる。
見上げる子尾根の稜線上に、イノシシが犬たちを蹴散らして躍(おどり)り出てきた。
頬(ほほ)の白い、大きなイノシシである。
こちらは銃を構えるいとまもなく、イノシシは小尾根の向こう側へ姿を消えた。
こちらがイノシシが姿を見せた場所にたどり着くと、犬たちがそこらじゅうをさがし回っている。
Leeも、イノシシを見失っている。
しばらくして、下の谷のほうでLeeの吠え声が聞こえる。
イノシシを見つけている。
若犬たちの声もする。
3匹が、大イノシシに絡(から)んでいる。
止め場まで、イバラを踏み敷いてくだる。
急斜面の藪(やぶ)のすいたところに、イノシシが上を向いた姿勢で立っているのが見えた。
射角は下向きで、イノシシの頭を狙って撃つ。
イノシシが、下向きに逃げた。
きょうもまた失中か?
また下の方の藪で、犬たちが絡(から)んでいる吠え声が聞こえる。
また藪を踏み敷いて寄りつく。
すると、イノシシに対してトラウマにかかっているロッキーも吠えついているのが見えた。
きょうのロッキーは、きのうまでのロッキーではない。
親のLeeと同胎犬の赤が戦っているのを目(ま)の当たりにし、彼らに触発されたのであろう。
本来持っているロッキーの闘争心に火がついたにちがいない。
犬たちがイノシシと離れているのを確認して、1発、見舞う。
近いので当たっているはずだが、この大イノシシは倒れない。
また、イノシシは下へ走った。
また、下の方で犬たちがイノシシに追いついた。
寄りつくと、枝分かれしたイバラの下の空間で犬たちがイノシシを足止めさせている。
イノシシが、「ヴィ、ヴィ」と鼻を鳴らして犬たちを威嚇する。
イノシシの横顔が見えたので、距離2メートルからその頭を狙って撃つ。
イノシシが、横倒しに崩れた。
3匹が、いっせいに飛びかかって咬む。
大きい!
100㎏は優に超えている。
頸動脈を指して血を抜く。
このイノシシは、よくここまで大きくなったものだ。
これまで何回も猟師に撃ちかけられたこともあろう、この付近の山の主であろう。
歴戦の勇者に敬意を表する。
しかし、きょうは秘犬・求菩提犬のLeeにかぎつけられたのがこのイノシシにとって運の尽きとなった。
求菩提犬は、相手がどんなに大きくても、いかに強くても果敢に勝負を挑む。
きょうも、Leeが右後ろ足の腿(もも)の裏側を突かれ、ロッキーは右前足の膝の上を切られ、赤は左わき腹を切られているが、いずれも手当ての必要のない軽傷である。
これだけの大物と戦う以上、犬たちの軽傷はやむをえない。
ただ、玉砕だけはしてもらいたくない。
Leeは貴重な求菩提犬の種犬であり、2匹の若犬はこれからいくらでも伸びる犬たちであるからである。
弾帯に残った弾の数からして、このイノシシを倒すのに5発も撃ったことになる。
まれにみる激闘であった。
後でわかったのだが、弾は5発のうち3発がイノシシに当たっていた。
最後のとどめの一発は右耳で、一発は右のわき腹でろっ骨がⅠ本が折れていたが胸腔には達していず、もう一発は尻の肉を削ぎ取っていた。
ロッキーは、トラウマを克服したようだ。
このままトラウマを克服できなければ、ことしの暮れには淘汰すると決めていた。
その土壇場で、ロッキーが死の淵から這い上がったといえよう。