猪犬のレンジ |
ここでいう「レンジ」というのは、犬の捜索範囲のことである。
とりわけ単独猟でつかう猪犬に限定して考える。
単独猟で使う犬のレンジについて、「主人からあまり離れない犬のほうがいい」という人が多い。
その理由をきくと、
①犬が主人から離れた場所で獲物を見つけても、主人がその場所まで駆けつけることができない
②その場所に駆けつけることができても、そのときには獲物は逃げていていない
と多くは二つの理由に分けられるようだ。
ということは、犬は常に主人の近くで獲物を見つけることを要求されることになる。
しかし、獲物がいつも主人の近くに寝ているとは限らない。
犬が主人の近くで獲物を見つけるためには、主人の方が犬を誘導して獲物の寝屋をシラミつぶしに訪ねてまわることが必要となる。
たしかに、若いハンターなら獲物の寝屋らしいところをシラミつぶしに訪ねてまわることは可能であろう。
しかし、ハンターの多くが高齢化している現在は、それはむつかしいと言わざるを得ない。
もちろん、高齢のハンターでも健脚を誇り、犬とともに寝屋をたずねてまわる御仁も少なからずいる。
そこで猪犬のレンジは、ある程度広い方がいいということになる。
レンジが広ければ広いほど、獲物を見つける確率が高くなるからである。
たとえば犬のレンジが主人を中心として半径50メートルの場合と半径200メートルの場合を比べればそれは明らかであろう。
主人から100メートル離れた場所に寝ている獲物をレンジの狭い方の犬は見つけることができないが、レンジの広い方の犬はこれを見つけることができる。
もちろん、その場所の地形、風の向き、強さなど獲物の体臭をキャッチする条件は異なるが。
レンジの狭い犬が好まれる理由の①は、突き詰めればハンターの足の問題に行きつく。
「1犬2足3鉄砲」でいわれる「足」、つまりハンターが健脚かどうかの問題である。
たとえ、主人から1キロメートル離れているところで獲物を止めていても、主人はそこまで駆けつけるだけの足を持っている必要がある。
レンジの狭い犬が好まれる理由の②は、裏返せば猪犬の猟能の問題に他ならない。
主人から500メートル離れた場所で犬が獲物を起こし、あるいはその場から逃げられ1キロメートル先で追いついたら、その場所に獲物を釘づけすることができる猟能を犬が持ち合わせていないからである。
実力のある猪犬になると、主人が駆けつけてくるまで獲物に向かって吠えこみ、獲物をその場に釘付けする。
主人が駆けつけたことを知ると、今度は戦法を変え、主人に撃たせるための段取りをする。
獲物が倒れると、これを咬んでおのれの猟欲を満足させる。
これに反して、犬が自分だけで狩りをする、いわゆるセルフハンティングする犬もいる。
狩りというものは、あくまでも主人と犬の共同戦線であるべきである。
したがって、セルフハンティングの犬は淘汰されるべきであろう。
以上のことから、猪犬のレンジは一般的には広い方がいいということになる。
それには、主人の健脚が前提条件であり、ひごろから足腰の鍛錬に精進が求められる。
それとともに、獲物を止めることができる実力のある犬をつくることはもちろんのことである。
とはいっても、レンジは広ければ広いほどいいというものではない。
犬によっては山で放すと、それっきり姿を見せない犬もいるという。
したがて、レンジの広さと連絡とは別の次元の問題である。
そのような連絡のない犬は、前述のセルフハンティング犬であろう。
時々主人の所へ戻ってきて連絡をすることは絶対に必要なことといえる。
そうでないと、主人は犬を掌握することができないからである。
結論として、むかしから言い伝えられている「1犬2足3鉄砲」のことばは、いまも少しも古びていないといことになる。