戦友・三本足のUへのお別れのことば |
(在りし日の三本足のU、目元の涼しげな犬である)
(在りし日の三本足のU、耳を倒して甘えるU)
三本足のUの御霊(みたま)の前に哀悼(あいとう)の辞をささげる。
お前は、10ヶ月齢の平成22年2月5日にこちらに来た。
その3日後の8日、先輩犬の見習いとしてお前を実戦にでデビューさせた。
その際、イノシシとの闘いでお前はイノシシに捕まり、そのイノシシの下敷きになって揉(も)まれた。
その日、お前は車へ戻ってこなかった。
それから毎日、お前をさがすため山に入った。
6日後の2月14日、山中で、お前は白に連れられてこちらの足元に戻ってきた。
6日間も10ヶ月の子犬が山の中で生活していたことになり、そのたくましさに舌を巻いた。
その後の2月16日、オス鹿を先犬のLeeとともに追っていって咬み倒し、俊足をアピールした。
お前の師匠の先犬が「谷落とし」から進化した「追い止め芸」を発揮しはじめると、お前もこれを見習ってめきめきと実力を蓄積していった。
猟期の末期、不覚にもイノシシに後ろ右足を咬み折られた。
闘いの場からお前を引き離し、別の場所で待つように指示したが、先輩犬の闘争の気配を察し、足をぶらぶらさせながらもふたたび闘いに参加した。
その闘志には、驚かされた。
翌シーズンの11月2日、お前はリーダーとして黒と赤を連れてはじめての遠征にいった。
谷底から吹きあげてくる風でイノシシの寝屋を嗅ぎとり、単犬で谷に飛び込み、イノシシを起こした。
すぐ車載ケージを開いて、黒と赤を放した。
3匹でイノシシを吠え止めて獲らせ、リーダー犬の資格を有することを証明した。
昨シーズンは、求菩提犬(くぼてけん)の黒が頭角をあらわし、B班のリーダーの地位についた。
そこで、お前はB班のツートップとしてよく仕事をこなしてきた。
さらに、日本では何匹もいない猪犬の最高峰である「追い止め芸」も黒と仕事をするうちに習得した。
三本足というハンディを少しも感じさせないその働きぶりはYouTubeに公開されると、多くの人たちから驚きと感動の声が寄せられた。
そして3期目のシーズンの今年、お前は黒と組んで追い止め芸にさらに磨(みが)きがかかり、こちらに豊猟をもたらした。
カラスの鳴かない日はあっても、起こしたイノシシを獲らせない日はなかった。
その間、夏に4匹の子犬を生むという台メスとしての仕事もこなした。
その子犬のうちのメスに、お前の命日に「二代目U」という名前をつけた。
これから、お前といっしょによく散歩した西山にお前を眠らせに行く。
ここなら、お前が3年間暮らした犬舎がよく見える。
そこには、お前の師匠のLee、お前と2年間ツートップを組んでイノシシと闘った戦友の「黒」、友犬のSがいる。
さらにお前の子どもがいるので、見守ってくれ。
いつまでもお前を悲しんでいるのは、お前の本意とするところではないだろう。
お前は、夢職庵(むしょくあん)の誇りであり、「追い止め芸」のできる貴重な犬としてこちらの自慢の種であった。
お前から受けた「最後まであきらめずに闘う」という不屈の姿勢は、永遠にこちらの心の中で生きつづけるであろう。
今日のお前の闘いは、見事であった。
さらにYouTubeやこちらが保存している数多くの動画・静止画で、いつでもお前に会うことができる。
お前のファイティングスピリットつまり闘う姿勢を遺訓として、お前の子どもたちに引き継ぐことをここに誓う。
きょうからはイノシシとの闘いを強(し)いられることはないので、先にそちらに行っている赤、白、八と仲よく追いかけっこをしてくれ。
お前たちの闘う姿勢が、求菩提犬の伝統を育(はぐく)んでくれた。
心からの尊敬と感謝をささげ、お別れのことばとする。
甘えることを許さなかった俺を許してくれ、そして本当にお疲れさま、、安らかに眠れ。
合掌