「湯立神楽」の鬼の精進 |
それだけ近郊には、神楽講がいくつもある。
嘘吹(うそぶき)神社の氏子でも神楽講がある。
「山内神楽講」である。
この神楽講は、海外でも公演をしたこともある実力派である。
神楽には、大きく分けてふたつの系統がある。
ひとつは島根の石見(いわみ)神楽に代表される須佐之命(すさのうのみこと)が登場して大蛇(おろち)を退治するものと、もうひとつは宮崎の高千穂神楽に代表される天の岩戸にお隠れになってしまわれた天照大御神(あまてらすおうのかみ)を引き出すため手力男命(たぢからおのみこ)とがその天岩戸を開くものである。
この山内神楽は、その中間に位置する神楽といえる。
清原神事(せいばるしんじ)で舞われるのは、山内神楽の湯立(ゆだて)神楽である。
湯立神楽は、ぐらぐらと沸騰させた釜のお湯を鬼が神シバですくってしぶきを観客にかけるもので、そのしぶきを浴びることで五穀豊穣、無病息災になるとむかしから言い伝えられている。
湯立神楽は各地にあるが、ここの湯立神楽は高さ10メートルもある孟宗竹の先に結び付けられた御幣(ごへい)と呼ばれる和紙をはさんだ細長い木の祭具を鬼が登っていって落とすものである。
長年、この鬼を舞ったひとにお話をうかがう機会があった。
このひとは、こちらより若い高上さんという神楽舞いである。
つるつるとしてすべり易い孟宗竹に登るには、強靭な体力を要する。
そのため、この鬼を舞うひとは、数ヶ月前から腹筋、背筋を鍛え、さらに腕立て伏せをして腕の力をつけるという。
女人(にょにん)は体力をそぐ、として1ヶ月前から同衾(どうきん)しないという徹底した精進ぶりだ。
そして鬼の面をかぶる前に、日本酒を三合ほど飲むという。
すると、神懸(かみがか)りとでもいうのか神がおのれの体に乗り移るのか、おのれが鬼になりきるのだという。
酒を飲むことにより、それまで高まっていた気分がいっそう高揚するのであろう。
かれは、地上10メートルの高さのロープに片手でぶらさがるという離れ技を演じて評判をとった。
その曲芸のような技を見たとき、「あ、落ちる」と肝(きも)を冷やしたことをきのうのことのように鮮明に思い出す。
そのかれは、自らが育てた後継者に4年前からにその役を譲っている。
来年は還暦になるので、その記念にもういちど体を鍛えなおして孟宗竹登りに挑戦してみたいと顔を紅潮させながら話してくれた。
清原神事-おくだり
動画:清原神事110410-1
動画:清原神事110410-2
動画:実猟
現在によみがえった求菩提犬(くぼてけん)の猟芸